No.53 — DEEP SEA SPECIES
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スネイルフィッシュとは?世界最深部を泳ぐ深海魚の秘密


スネイルフィッシュとは?基本情報

スネイルフィッシュ(クサウオ科)は、現在確認されている中で最も深い場所に生息する魚類として知られる深海魚のグループです。2023年には水深8,336メートルという記録的な深さで新種が目撃・採集され、世界中の研究者を驚かせました。

「スネイルフィッシュ(snailfish)」の名は、背鰭・腹鰭・尾鰭が一体化したヒレが巻貝(snail)を思わせることから付けられました。

項目詳細
学名(代表種)Pseudoliparis swirei(マリアナスネイルフィッシュ)
分類条鰭綱 カサゴ目 クサウオ科(Liparidae)
英語名Hadal snailfish / Mariana snailfish
体長20〜28cm
体色半透明の白〜淡ピンク色
生息水深主に6,000〜8,336m(超深海帯・漸深海帯)
分布太平洋の海溝(マリアナ海溝・伊豆・小笠原海溝など)
食性端脚類(ヨコエビの仲間)・小型甲殻類

「世界最深の魚」記録の歴史

2008年——水深7,703mで記録更新

2008年、日英共同チームがニュージーランド沖の深海海溝(ケルマデック海溝)水深7,703メートルで、当時の最深記録を更新するスネイルフィッシュの映像を撮影しました。

2017年——マリアナ海溝でP. swireiを記載

2017年、マリアナ海溝水深6,898〜7,966メートルで採集・撮影された個体がPseudoliparis swireiとして新種記載されました。半透明でほぼ骨が透けて見える幽霊のような外見が大きな話題を呼びました。

2023年——水深8,336mで新記録

2023年、日本・オーストラリア合同の深海調査チームが伊豆・小笠原海溝水深8,336メートルで魚を撮影・採集することに成功。これは現在の「最深魚類記録」です。


なぜこんな深さで生きられるのか?

水圧800気圧以上への適応

水深8,000メートルの水圧は約800気圧。一般的な深海魚でさえ到底耐えられない環境です。スネイルフィッシュが生き延びられる秘密は以下の通りです。

① 骨格の柔軟化

スネイルフィッシュは骨の石灰化が非常に少なく、軟骨のように柔軟です。浮き袋(鰾)も持たないため、水圧で圧壊するリスクがありません。

② TMAO(酸化トリメチルアミン)の蓄積

細胞内のTMAO(トリメチルアミン N-オキシド)濃度が深さに比例して高くなります。TMAOはタンパク質の立体構造を安定させる「保護剤」として働き、高水圧によるタンパク質変性を防ぎます。

③ 不飽和脂肪酸の細胞膜

高圧下では細胞膜が固くなりますが、スネイルフィッシュは不飽和脂肪酸を細胞膜に多く含むことで流動性を維持しています。

生息限界はなぜ約8,400m?

理論上、TMAOをどれだけ増やしても物理化学的な限界があります。研究者の推計によると、魚類が生存できる最深限界は約8,400〜8,500mとされており、スネイルフィッシュはまさにその極限に挑んでいます。


超深海での暮らし——「海溝の王者」

水深6,000m以深の超深海帯(ハダル帯)は、他の捕食者がほとんど存在しない特異な世界です。

スネイルフィッシュは、この世界で食物連鎖の頂点に君臨しています。主食は海溝の底に大量に棲むヨコエビ(端脚類)で、5〜7匹の小群れで活発に泳いで捕食する様子が深海カメラで確認されています。

体が半透明のため、X線写真のように体内が透けて見えるのも特徴です。胃の中にヨコエビがぎっしり詰まった状態のまま採集される個体も多く、海溝の豊富な有機物を効率よく利用していることがわかります。


調査と研究の最前線

スネイルフィッシュの研究はJAMSTEC(海洋研究開発機構)をはじめ、英国・米国・オーストラリアの研究機関が連携して進めています。

深海探査機(ランダー)にビデオカメラとおとり(誘引餌)を搭載して超深海に沈め、自動浮上させて映像を回収する手法が主流です。採集個体の全ゲノム解析が進んでおり、高圧適応の分子メカニズムの解明が期待されています。


まとめ——生命の果ての魚

スネイルフィッシュは、地球上で最も過酷な環境に適応した魚類です。

深海探査技術の発展とともに、スネイルフィッシュの記録はさらに更新されるかもしれません。生命の可能性の果てを探る最前線の研究から、目が離せません。

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