ヨコヅナイワシは、2021年にJAMSTECが日本近海の深海で発見・新種記載した深海魚です。静岡県・駿河湾沖の水深約2,000メートルで捕獲され、国内外で大きな話題となりました。
「ヨコヅナ(横綱)」の名は、その巨大さとずんぐりとした体型が相撲の横綱を連想させることから付けられました。同科(ニギスの仲間・深海のムネエソ類)の他種と比べ、体長・体重ともに圧倒的な大きさを誇ります。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 学名 | Narcetes erimelas |
| 分類 | 条鰭綱 ニギス目 ソコギス科(Alepocephalidae) |
| 英語名 | Colossal slickhead(コロッサルスリックヘッド) |
| 体長 | 最大約130cm |
| 体重 | 最大約25 kg |
| 生息水深 | 約2,000m(深海平原域) |
| 分布 | 北西太平洋(駿河湾・相模湾近海) |
| 食性 | 深海魚・頭足類(胃内容物から確認) |
ヨコヅナイワシが属するソコギス科(Alepocephalidae:スリックヘッド類)は、世界中の深海に生息する地味な魚のグループです。多くの種は体長30cm以下で、深海の食物連鎖では中間的な存在とされていました。
しかし、ヨコヅナイワシは体長130cm・体重25kgという、同科の常識をはるかに超えた巨体を持ちます。さらに驚くべきは胃の内容物で、ハダカイワシ(Lanternfish)・ソコギス科の別種・その他深海魚が消化されずに残っており、深海2,000mにおける大型捕食者であることが判明しました。
魚類の新種発見自体は珍しくありませんが、体長1m超・体重25kgという大型脊椎動物の新種は現代では極めて稀です。最後に注目された大型深海魚の新種は、2007年発見のヨコヅナイワシ以前にさかのぼります。
JAMSTECの研究チームが無人深海探査機(ROV)と深海トロール網を組み合わせて採集した本種の論文は、2021年の深海生物学界で最も注目された発表のひとつとなりました。
ヨコヅナイワシの体は同科他種と比べて横幅が広く、ずんぐりとした体型をしています。頭部は比較的大きく、口も大きく開くため大型の獲物を飲み込めます。
体色は黒褐色で、深海環境に溶け込む暗い色合いです。鱗は小さく、体表はなめらかに見えます。
同科の魚がなぜここまで大型化したのか、まだ解明されていません。
考えられる仮説のひとつが「深海の島効果」です。駿河湾は日本で最も深い湾で、浅瀬から一気に水深2,500mに達する特殊な地形を持ちます。こうした閉鎖的・固有的な深海環境が、大型化した固有種を育てた可能性があります。
ヨコヅナイワシが発見された駿河湾(静岡県)は、湾の最深部が水深2,500mを超える日本最深の湾です。富士川から流れ込む栄養豊富な水と、急峻な海底地形が独特の深海環境を生み出しています。
駿河湾の深海はこれまでも多くの珍しい生物が発見されており、沼津港深海水族館(沼津市)はその豊かな深海生態系を展示することで知られています。
ヨコヅナイワシは、現代においてもまだ大型の未知生物が深海に潜んでいることを証明した存在です。
日本近海の深海がいかに未知の領域であるかを示すヨコヅナイワシ。今後の調査で生態の詳細が少しずつ明らかになることが期待されています。