No.55 — DEEP SEA SPECIES
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ハダカイワシとは?地球で最も多い脊椎動物の不思議な生態


ハダカイワシとは?基本情報

ハダカイワシは、地球上で最も個体数が多い脊椎動物と言われる深海魚のグループです。世界中の海の水深200〜1,000メートルに広く分布し、その総生物量は約1億トンと推計されています。

「ハダカイワシ(裸鰯)」の名は、鱗(うろこ)が非常に剥がれやすく、水揚げされた時点でほとんど鱗がなくなっていることに由来します。

項目詳細
学名(科)Myctophidae(ハダカイワシ科)
代表種Myctophum punctatum(ドット紋のある一般的な種)
英語名Lanternfish / Myctophid
体長2〜30cm(多くの種は3〜10cm)
生息水深昼:200〜1,000m / 夜:表層0〜200m
分布世界中の海洋(極域を除く)
食性動物プランクトン(カイアシ類・オキアミなど)
特徴体側に発光器(光器)が並ぶ・毎日垂直移動を行う

ハダカイワシの最大の特徴——毎日の垂直移動

日周鉛直移動(DVM)とは

ハダカイワシの最も重要な特徴は、日周鉛直移動(Diel Vertical Migration:DVM)を毎日繰り返すことです。

この移動距離は数百メートルに及び、体長5cm程度の小さな魚が毎日繰り返します。表層で食べた有機物を深海へ運ぶことで、炭素を深海に固定する重要な役割を果たしています。

深海散乱層(DSL)の正体

1940年代、海軍のソナーが「海底」と誤認した謎の反射層が世界中の海で発見されました。これが深海散乱層(DSL:Deep Scattering Layer)です。

その正体はハダカイワシの大群——無数のハダカイワシが集まって泳ぐ層が、音波を反射していたのです。昼間は数百メートルの深さに位置し、夜間は表層近くに浮上するため、毎日その深さが変化します。


体側に並ぶ発光器——名前の由来「ランタンフィッシュ」

ハダカイワシが英語で「Lanternfish(ランタンフィッシュ)」と呼ばれる理由は、体の側面に並んだフォトフォア(発光器)にあります。

これらの発光器はルシフェリン-ルシフェラーゼ反応(または細菌との共生)による生物発光で、青〜緑色の光を放ちます。発光の目的は以下の通りです:

  1. 対影偽装(カウンターイルミネーション):上から見下ろす捕食者に対し、腹側からの光で自分の影を消す
  2. 種の識別・求愛:発光パターン(光器の配列)が種ごとに異なり、仲間の識別に使われる
  3. 群れの維持:暗い深海で群れを保つための視覚的シグナル

生態系での圧倒的な役割

「深海食物連鎖の要」

ハダカイワシは、深海食物連鎖においてほぼすべての上位捕食者の主食です。

これほど多くの捕食者に食べられながら個体数を維持できるのは、繁殖力の高さ(短命で世代交代が速い)と絶対的な数の多さによるものです。

「生物ポンプ」としての機能

ハダカイワシは夜間に表層で有機物を食べ、昼間に深海で代謝(排泄・呼吸)します。この行動が、表層の炭素(CO₂)を深海に輸送する「生物ポンプ」として機能し、地球の炭素循環に大きく貢献しています。


未来の食料資源として

ハダカイワシの総生物量は約1億トンと推計されており、これは現在人類が年間漁獲する全魚類の約1.2倍に相当します。

食料不足や漁業資源の枯渇が懸念される中、ハダカイワシは将来の持続可能な食料・飼料資源として注目を集めています。ノルウェーなどでは小規模な商業漁獲の可能性が研究されていますが、過剰漁獲が生態系に与える影響を慎重に評価する必要があります。


まとめ——見えないところで世界を支える深海魚

ハダカイワシは、その地味な外見にもかかわらず、地球の海洋生態系を支える最重要種のひとつです。

深海探査のたびに大群が確認されるハダカイワシ。その小さな体が、私たちの知らないところで地球の海を動かしています。

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