No.16 — DEEP SEA SPECIES
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ヌタウナギの生態・特徴・食用について【深海の掃除屋の正体】


ヌタウナギとは?

ヌタウナギ(英語名:Hagfish)は、深海の底に生息する細長い魚類に似た生き物です。「魚」と呼ばれますが、顎を持たない「無顎類(むがくるい)」に分類され、現在生存する魚類の中で最も原始的な生き物の一つです。

外見はウナギに似た細長い体(体長30〜100cm程度)で、目が退化しており、口の周りには触手(ひげ)が生えています。「ヌタウナギ」という名前は、大量の粘液(ヌタ)を分泌する習性から来ています。


ヌタウナギの最大の武器——粘液

ヌタウナギは外敵に捕まりそうになると、体の粘液腺から大量の粘液を分泌します。この粘液は海水と混ざると急速に膨張し、ゲル状の塊(スライム)になります。

その量は驚異的で、体長60cmほどの個体が数秒で20リットル近くのゲル状物質を生成するとも言われます。これにより捕食者の口やエラがふさがれ、身を守ることができます。捕食者はたまらず口から放してしまうわけです。

この粘液の主成分はタンパク質繊維(ミューシン)と水で、その繊維構造の強度と軽さは工学的な応用研究が進められています。将来的には防弾素材や航空宇宙材料への応用が期待されています。


外見と解剖学的特徴

顎がない

ヌタウナギは真の顎を持ちません。代わりに口内に角質板でできた「歯板」があり、食べ物を引っかいてかき込む動きをします。

目が退化

深海生活に適応した結果、目は著しく退化しており、明暗程度しか感知できません。代わりに触手による触覚・化学感覚が発達しています。

脊椎がない

ヌタウナギは脊椎骨を持たず、柔軟な軟骨の「脊索(せきさく)」のみを持ちます。これは脊椎動物の祖先型の特徴であり、ヌタウナギが非常に原始的な生物であることを示しています。

自分を結ぶ「結び目」

ヌタウナギは体を結び目のように結ぶことができます。体に粘液がついて滑らかになった際、結び目を作って体をこすることで粘液を落とす「自己清潔行動」に使います。


食性——深海の清掃係

ヌタウナギは深海の腐肉食者(スカベンジャー)として知られています。主な食べ物は海底に沈んだ生き物の死骸(クジラ・魚など)で、皮膚から直接栄養を吸収する能力も持ちます。

死骸に頭から潜り込み、体内の肉を食べ尽くすという独特の習性を持ちます。海底の「清掃係」として生態系の物質循環に大きな役割を果たしています。


ヌタウナギは食べられる?

韓国では「コムジャンオ(꼼장어)」と呼ばれ、BBQで焼いて食べる人気料理として親しまれています。独特のぬめりを取り除き、炭火でこんがり焼いた身はコリコリとした食感で、ピリ辛のたれと一緒に食べます。韓国の市場では大量に流通しており、韓国人にとってはポピュラーな食材です。

日本では食用として一般的ではありませんが、漁師が混獲した際に食べることはあります。皮をなめし加工して「エルウィン・レザー」として高級革製品(財布・ベルトなど)に使われることもあります。


生息地と分布

ヌタウナギは世界の全海洋の深海底に広く分布しており、水深200〜1,000m前後の砂泥底に多く生息します。日本近海でも多く見られ、特に日本海・太平洋側の深海に生息しています。


進化的位置づけ

ヌタウナギはおよそ3億年前から現在とほぼ変わらない形で生き続けてきた「生きた化石」の代表格です。その原始的な体制(顎なし・脊椎なし)は、脊椎動物の祖先型がどのような生き物だったかを示す生きた手がかりです。


ヌタウナギ データ

項目内容
分類無顎上綱ヌタウナギ目
英名Hagfish
体長30〜100cm
生息深度200〜1,000m
食性腐肉食(スカベンジャー)
特徴大量粘液、顎なし、目退化
分布世界の全海洋
食用韓国で一般的な食材

まとめ

ヌタウナギは外見の不気味さとは裏腹に、深海の生態系で重要な役割を果たす「掃除屋」です。大量の粘液という独自の防御機能と、3億年変わらぬ姿は、深海という環境の安定性を物語っています。韓国では一般的な食材であり、皮は高級革素材として世界中で利用されるなど、実は人間の生活にも深く関わっている生き物です。

深海の生き物についてもっと知りたい方は深海魚 種類・一覧まとめ【図鑑サイト完全版】をご覧ください。深海魚が怖い理由については深海魚が怖い・グロテスクな理由もどうぞ。

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