No.17 — DEEP SEA SPECIES
読了時間 約4分

マリアナ海溝の生き物一覧【世界最深部の生命】


マリアナ海溝とは?

マリアナ海溝は、西太平洋・グアム島近海に位置する世界最深の海溝です。最深部「チャレンジャー海淵」は水深約10,935m(約11km、2010年代の精密測定値)と測定されており、エベレスト山(標高約8,849m)を沈めてもまだ海面下2km以上残る計算になります。

この極限環境——高水圧(1,000気圧超)・低水温(約2〜4℃)・完全な暗闇・乏しい食料——にもかかわらず、驚くべき多様な生命が生息しています。


マリアナ海溝の環境

項目
最深部約10,935m(チャレンジャー海淵・2010年代測定値)
水圧約1,100気圧(地上の1,100倍)
水温約1〜4℃
完全な暗黒(200m以深から光なし)
位置西太平洋、マリアナ諸島近海

マリアナ海溝に生息する生き物

1. マリアナスネイルフィッシュ(シュードリパリス)

学名 Pseudoliparis swirei。2017年に水深8,336mで発見された脊椎動物として世界最深の記録保持者。体長は20〜28cm程度。透明〜白い体を持つ小型魚で、光のない深海底でカラフロ(甲殻類の一種)などを食べています。

2023年には別の研究で8,336mを超える深度でのスネイルフィッシュ映像が撮影され、さらに記録が更新された可能性があります。

2. ヨコエビ(アンフィポッド)の仲間

マリアナ海溝の超深海(ハダル帯:6,000m以深)で最も優占する動物群の一つ。水深7,000〜11,000mで多数の個体が捕獲されており、種によっては体長30cmを超えるものもいます。

有機物(海底に沈んだ動植物の死骸)を主な食料とし、腐肉食者として生態系の物質循環を担っています。水圧への適応として、細胞膜の不飽和脂肪酸比率を変化させているとの研究があります。

3. ホリウミウシ・ナマコの仲間

超深海にはナマコ(ホロツロイデア)の仲間が多く生息しており、一部の種は海溝最深部でも確認されています。「エルパジア(Elpídia)」属などのナマコは、海底堆積物を食べながら移動します。

4. ポリケータ(多毛類)の仲間

ゴカイに似た多毛類も超深海に生息しています。有機物に富む堆積物の中に潜り込んで生活し、分解者として重要な役割を持ちます。

5. バクテリア・古細菌

マリアナ海溝の堆積物中には多様な微生物が生息しています。メタン産生菌・硫酸塩還元菌などが有機物を分解し、超深海の生態系の基盤を支えています。極限圧力下でも活発に代謝を行える特殊なタンパク質構造を持ちます。

6. 単細胞生物(有孔虫・放散虫)

超深海の堆積物中には、単細胞生物である有孔虫(フォラミニフェラ)の殻が大量に蓄積しています。一部のクセノフィオフォレア(巨大単細胞生物)は体長10cm以上にもなり、深海底での最大の単細胞生物として知られます。

7. ダンゴムシの仲間(等脚類)

ダイオウグソクムシと同じ等脚類(イソポーダ)の仲間も超深海に生息しています。浅海のダンゴムシに近縁ですが、深海型は体が大きく、活動が緩慢です。


超深海(ハダル帯)の食物連鎖

マリアナ海溝のような超深海(ハダル帯:水深6,000m以深)は、独自の食物連鎖を形成しています。


【エネルギー源】
海面で産生された有機物(プランクトンの死骸・魚の糞など)
↓ 数か月かけて海底に沈降
【一次消費者】
バクテリア・有孔虫・多毛類(有機物を分解)
↓
【二次消費者】
ヨコエビ・ナマコ(有機物・バクテリアを食べる)
↓
【頂点捕食者】
スネイルフィッシュ(ヨコエビなどの甲殻類を食べる)

マリアナ海溝の探査史

出来事
1875イギリスのチャレンジャー号がマリアナ海溝を発見、深度測定
1951チャレンジャーII号が最深部(後のチャレンジャー海淵)を特定
1960バチスカーフ「トリエステ」号(ドン・ウォルシュ、ジャック・ピカール搭乗)が10,916mに到達(有人潜水世界記録)
2012映画監督ジェームズ・キャメロンが単独で10,908mに到達
2019米海軍のビクター・ヴェスコボが10,928mに到達(当時の記録)
2022多数の深海探査機による生物サンプル採取・映像記録が続く

人間が持ち込んだ汚染

悲しいことに、マリアナ海溝のヨコエビからPCB(ポリ塩化ビフェニル)やPBDE(難燃剤)などの有機汚染物質が検出されています。これらの物質は数十年前に製造・使用が禁止されたものの、食物連鎖を通じて海洋底まで到達したと考えられています。人間の活動の影響は世界の最深部にまで及んでいます。


まとめ

マリアナ海溝は「死の世界」ではなく、独自の生態系を育む「命の世界」です。極限の水圧・暗黒・低温という過酷な条件下で、バクテリアから魚類まで多様な生命が生き続けています。探査技術の進歩とともに、これからも新種の発見が期待されています。

深海の生き物をもっと知りたい方は深海魚 種類・一覧まとめ【図鑑サイト完全版】をご覧ください。深海魚が圧力に耐えられる仕組みについては深海魚 なぜ圧力に耐えられる?生物学的しくみもどうぞ。

SHARE 𝕏 ポスト LINE