シーラカンス(学名:Latimeria 属)は、「生きた化石」の代名詞ともいえる深海魚です。約3億5000万年前(デボン紀)に出現し、6600万年前の大量絶滅(白亜紀末期)を乗り越えて現在まで生き続けています。
1938年以前、シーラカンスは7500万年前に絶滅したと考えられていました。しかし1938年、南アフリカのイースト・ロンドン沖で生きたシーラカンスが漁網で捕獲され、世界中に衝撃を与えました。これは20世紀最大の生物学的発見の一つと言われています。
1938年12月22日、南アフリカの漁師がインド洋(東ロンドン沖)で奇妙な魚を網に入れました。この魚を「見たことがない」と地元博物館員のマージョリー・コートネイ=ラティマーが保管し、魚類学者J.L.B.スミスに送りました。
スミスは写真を見て「絶滅したはずのシーラカンスだ」と気づき、「この発見は私に月面を歩くことより大きな衝撃を与えた」と語ったとされます。属名「Latimeria」は発見者ラティマー女史にちなんでつけられました。
シーラカンスの最大の特徴は、胸ビレ・腹ビレが「柄のある葉状」であることです。骨格と筋肉が発達した肢に似た構造を持つこの鰭は、水中で歩くように動かして泳ぎます。
この構造は、魚類が陸上生活に適応していく進化の過程(水中の鰭→陸上の四肢)を示す「中間型」と考えられており、四肢動物(両生類→爬虫類→哺乳類)の祖先型に近い特徴を持ちます。
第1背鰭は旗のようにひらひらと動き、水中でのバランスや方向転換に使われます。
頭部先端に「ロストラル器官」という電気受容器官を持ちます。これはサメのロレンチーニ器官に似た機能を持ち、獲物の微弱な電気信号を感知します。
成体の全長は140〜190cm、体重は30〜90kg程度。体色は青灰色〜褐色で、白い斑点が散らばります。この斑点パターンは個体によって異なるため、個体識別に使われています。
シーラカンスは現在2種が確認されています。
| 種名 | 分布 | 発見年 |
|---|---|---|
| アフリカシーラカンス(Latimeria chalumnae) | インド洋(南アフリカ〜モザンビーク・コモロ諸島・タンザニア・マダガスカル周辺) | 1938年 |
| インドネシアシーラカンス(Latimeria menadoensis) | インドネシア(スラウェシ島周辺) | 1997年 |
2種の分布域が大きく離れているのは、かつて広域に分布していた集団が海洋環境の変化によって隔離・分断された結果と考えられています。
生息深度は通常100〜400m(文献によっては700m超)。岩礁や洞窟周辺を好み、昼間は洞窟内に隠れ、夜間に浅場で活動する傾向があります。
食性は肉食で、魚類・頭足類(イカ・タコ)・甲殻類などを捕食します。遅い速度で泳ぎながら「漂い捕食」を行い、ロストラル器官で電気的に獲物を感知します。頭が下を向く「ヘッドスタンド」という独特の姿勢を取ることがあり、これも電気感知の一部と考えられています。
繁殖は胎生(卵胎生)で、体内で孵化した仔魚が産まれます。妊娠期間は推定13〜14ヶ月と長く、1度に産む仔魚は最大26匹程度。成熟年齢は20〜25年とされ、寿命は60〜100年と推定されています。
日本では沼津港深海水族館が世界で唯一シーラカンスの冷凍個体を展示していることで有名です(複数個体)。1994年にコモロ諸島から入手したもので、世界中の研究者が訪れます。
また、土佐清水市(高知県)に「シーラカンス学術調査隊」の拠点があり、日本人研究者が継続的にシーラカンス調査を行っています。
シーラカンスの化石は世界中から発見されており、現在の個体と外形的にほぼ変わっていません。これが「生きた化石」と呼ばれる所以です。
ただし「進化していない」わけではなく、遺伝子レベルでは長い時間をかけてゆっくり変化していることが分かっています(2013年のゲノム解析)。深海という安定した環境で体制変化の必要がなかったため、形態的変化が少なかったと解釈されています。
| 項目 | 内容 |
| 学名 | Latimeria chalumnae(アフリカ種) |
| 英名 | Coelacanth(シーラカンス) |
| 全長 | 140〜190cm |
| 体重 | 30〜90kg |
| 生息深度 | 100〜700m |
| 寿命 | 推定60〜100年 |
| 再発見 | 1938年(南アフリカ沖) |
| 現生種数 | 2種 |
シーラカンスは3億年以上前から形をほとんど変えず生き続けてきた、地球の生命史を体現する存在です。「絶滅したはず」の生き物が突然発見されるという奇跡的な再発見の経緯も、シーラカンスを特別な存在にしています。
日本では沼津港深海水族館でその冷凍標本を見ることができます。ぜひ実物に触れてみてください。
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